殺虫剤
 
 
自然の豊富な島だから、虫も野生の小動物もたくさんいるバリでは殺虫剤は必要不可欠。私の家には、各部屋の入り口に殺虫剤(スプレータイプ)を常備していて、いつでも襲い掛かってくるであろう虫と戦う準備が出来ている。この殺虫剤が、バリ島ではなんと別の用途で用いられる事がある。

それは、自殺だ。
こんなに大らかでのん気な人達の多い島国でも、思いつめられて自殺したくなる人がいるというのもちょっぴり驚いたのだが、それよりも、自殺手段として殺虫剤を用いるというのはバリで初めて知ってもっと驚いた。そもそも殺虫剤なんて飲んでも「お腹痛くなりそう」とか「苦そう」とか思うだけで、「死んでやるー」と思い切った人が飲む程の物なのだろうか?飲むと言うのは、殺虫剤には液体タイプがあるからなのだそう。私が使っているのは、スプレータイプなのでまさかあれを口に向けて「シュー」っとやろうとは思うまい。きっとむせるだけだよね。こちらでメジャーなのが、”バイゴン(Baygon)”と呼ばれるメーカーの物で(日本で言う”金鳥”といったとこか)、とにかく代名詞のように「バイゴンを飲む」=「自殺」らしい。(因みに、私が使っているのは”バイゴン”ではなくより経済的な”ヒット”だが。)液体タイプは、スプレーよりももっと効力があるのか、強いのか、通常は専用ポンプを使って(ウォーターガンの用に)シュコシュコやって庭とかにいる虫を殺すために用いられ、あまり屋内では使われない。ボトル1本で1リットル入ってる。

初めてこの話を聞いたのが、ある日勤め先のスタッフの女の子が元気なく会社に来て皆に心配されていたので私が「どうしたの?」と聞いたら「彼氏に別れたいと言ったら、バイゴン飲んで入院しちゃった。私のせい・・・」と落ち込んでいたのである。笑い事では無いのだが、しかも飲んだのが男性というのがちょっと笑えてしまった。。。なんてちっちゃな奴だ。用は、恋人と別れたくないがために心配させようと飲んでみるものなのか!?それなら本当に命がけだ。でもさー、飲んで苦しんで周りの人々に心配かけて、結局回復すれば、あーたただの迷惑者じゃないのねぇ。その彼女、やはりそのタイミングでは別れられなかったみたいだけど、結局半年後くらいには別れてたもんね。

そしてつい先日、知り合いが食べ物にあたって入院した際に、病院に行ったときの出来事。緊急治療室みたいなところがあって、カーテン一枚だけで仕切られているベッドがたくさん並んでいる部屋で、肝心の私の知り合いは一応点滴をしていて安静にしていれば大丈夫くらいだったので、安心だったのだが、そのカーテン一枚はさんだお隣が、「バイゴン飲んだ」若い女の子だったのだ。ドクターや看護婦さん、家族がたくさん見守る中ひきつけを起こしているのか、バタバタあわただしかったので気になって見てしまった。と、突然ドクターが「懐中電灯もってきて」とか叫び始めて、「え?懐中電灯って、よくドラマで亡くなった人の瞳孔に当てて、「残念ですが・・・」とかいうシーンに使われるやつ!?」と思って、てことは・・・?と心配になっていたけど、その女の子は玉のような汗をいっぱいかいていてまだ大丈夫だったみたい。そしたら、ドクターが家族に「こういうことはよくあるんですか?自殺はよくするんですか?」とか聞いてる。 そんな、自殺が趣味な人なんているんだろうか。しかも毎回未遂って事かい!

でも、話を聞いていたら、この彼女、バイゴンを1本飲んだらしい。1本だよ、1リットル。すごくない!?一気に飲めたのかなー?そりゃ練習したのかもね、なんて考えてしまったわい。予想だけど、きっと年齢からして恋のもつれってとこなのかなー?ドクターの必死な処置のおかげで、私が帰る頃にはなんとか命は取りとめていたみたいだけど、バイゴン1本飲む勇気があるなら、生きる勇気にまわせば良いのにね。

このメジャー(?)な自殺未遂手段は、バイゴンの他にバイクリン(漂白剤)ってのもあるらしい。実は、サヌールのローカルサーファーの若い男の子も、一度バイクリン飲んで新聞に載ってた。(笑)しかも後日、ぴんぴんしながら波乗りしていて、周りの友達に「お、おまえ白くなったんじゃねー?」なんて突っ込まれていた。笑い話にされるくらいならまだ良いかも知れないけど、本人はきっと必死だったんだろうね。その時は。

死にたくなる事があっても、確実に死ねる手段を選ばないのがバリ人流なのかしら???その方が、命落とさなくていいから安全だけど、バイゴン社的には迷惑な話だろうね、こりゃ。

March 2004, by Mariko




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